カネタ太田園
“日本一”のお茶を支える匠の技を、これから
も受け継いでいくために。家族総出で取り組
む、日本最高峰のお茶づくり。
天竜エリアで一番有名なお茶屋といえば〈カネタ太田園〉だ。この地域で知らぬ人はいない。全国茶品評会では毎年のように一等に入選、天皇杯や黄綬勲章も受賞し、「国際名茶品評会2018」では三度目となる名茶大賞を受賞するなど、世界的にも認められた日本を代表する茶農家なのだ。職人肌の昌孝さんが丹精込めて育てあげたお茶。その匠の技を受け継いでいくのは昌孝さんの義息子の勝則さんと孫の美咲さんだ。お茶を育てる人、お茶をつくる人、お茶を広める人、それぞれが、それぞれの場所で、お茶の世界に真摯に向き合っている。
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茶づくりは、すべて畑で学んだ。
いいお茶は、いい畑でこそできる。
店内には所狭しと賞状や盾が並ぶ。天竜茶を代表する〈カネタ太田園〉のお茶を求めて、天竜を訪れる人も少なくない。浅蒸しの透明感のあるお茶は、飲んだあとすっきりとした旨味が残り、清々しい香りの余韻が口の中を満たす。品評会に出すお茶をつくるのは昌孝さんだ。曽祖父の代からこの地で茶づくりを始めた。小さい頃から畑にいたという昌孝さんは幼少の頃から茶づくりに勤しみ、茶農家の息子として育てられた。祖父たちが働く姿を間近で見ながら、実地で茶づくりを学んでいった。
「小さい頃は、背負いかごの中に入れられて畑に連れられてね。朝5時には発動機の音がして、それが目覚まし時計だった。畑仕事を手伝ってから学校に行って。全部見よう見まねで教わってきたんだな。小学校の時からやってきたから、中学の時には自然とできたし、いつのまにか体に染み込んでる。辛かったこともあるけれど、お茶をつくるようになってからは、そういう昔のことがうれしく思えるようになったね。今こうやってお茶に打ち込めるのもその時に教えてもらったことが生きている。自分にとってかけがえのない財産だよ」
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数えきれぬほどの賞を取ってきた〈カネタ太田園〉のお茶と、ほかのお茶との違いは何かと問えば、「手間暇」と昌孝さんは答えてくれた。
「土づくりが勝負。現物のお茶が良くなければ、どんなに機械や技術が高まっても意味がない。畑に行くことが何よりも大事だね。若い人には『人よりいいものをつくりたかったら、人より余計畑に足を運べ』と言っている。そうすれば、何が必要か見えてくるからね。土が乾いてれば、水が欲しいんだなとか、草が生えてれば一本でも多く取ってくる。そういうこと。それが一番の基礎じゃないかと思います。手をかければいいものができるけれど、手をかけちゃダメなのは人間の子ども。百姓は、手をかけてやればやるほど恩返しをしてくれる。それを信じてやって今までやってきたよ」
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親子三代で賞を独占。
適材適所のお茶づくり。
2019年、第73回全国茶品評会普通煎茶4kgの部で、1等1席、1等2席、1等3席と、1、2、3位を〈カネタ太田園〉が独占した。昌孝さん、勝則さん、美咲さんがそれぞれ受賞したことで、話題にもなった。
「おじいちゃんも父も頑張ってなかったら、私も継ごうと思わなかった」と話すのは、昌孝さんの孫の美咲さん。偉大な祖父と、その技術を継ぐべく奮闘する父の姿を見て、自然と家業を継ぐ決心が固まったようだ。
小さい頃から家の手伝いをし、物心ついたときからお茶の試飲もやっていたという美咲さんは、昌孝さんがそうだったように茶畑で遊んで育った。北海道の大学で食品流通について学び、卒業後は食品関係の会社へ就職。24歳で家業を手伝い始めた。現在は、小売の配送や店番などを担当し、お茶のシーズンは工場や畑も手伝う。
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美咲さんが、納品などで小売店へ足を運ぶようになってからは、商品について提案されたり、相談されることが増えたという。たとえば、ホテルの売店で販売していたお茶を、ティーバックに変え、オリジナルのキャラクターをあしらったパッケージで手に取りやすい価格に変えたところヒット。今まで商品開発を手がけることはなかっただけに、新しい展開が生まれたのは美咲さんのアイデアが発端だった。若い世代が買いたいと思うものや手に取りやすいもの。紅茶やハーブティーとならぶ緑茶になるためには、もっとブランド価値を上げていくことが必要だと、美咲さんは常々感じているという。
「おじいちゃんはいいお茶をつくれば売れると言っています。確かに今まではそうで、おいしいと思った人がリピートしてくれることが大半でした。だけど、まずは手に取ってもらえる状況をつくる必要があると思うんです。手に取ってもらって、気に入ってもらえればまた買ってもらえる。今の時代は選択肢が多いし、お茶を飲んでもらえる機会自体がそもそも少ない。味がおいしいのはもちろん、味に合わせたパッケージや高級感と、手に取りやすさやデザインなども大事だと思っています」
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お茶を飲んでもらうために必要な
若い世代だからこそ、できる試み。
パッケージデザインは美咲さんの妹が、ディクレションは美咲さんが担当する。そもそもお茶を飲む人が少なくなっているという現実を見据え、では一体どうすればいいのか、そして何ができるのかを考えるのが美咲さんの役割だ。おいしいお茶をもっと広く、たくさんの人に伝えるために必要なことは何かをいつも考えている。
「おじいちゃんのすごさは、厳しいことも言い合えること。おいしいお茶をがんばってつくっている姿を小さい頃から見てきたから、これからもできる限り、続けて、守っていくことができたらいいなと思っていて。お茶を取り巻く現状は、正直厳しくて、売上も下がっていて、この先どうなっちゃうんだろうとも思います。おじいちゃんたちがやっていた時代と、父母の時代と、私の時代は違うはず。今までは卸が大半だったのが小売が少しずつ増えてきているし、そうした変化を受け入れつつ、柔軟性を持ちながらやっていけたらいいなと思っています」
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急須でお茶を飲み、水筒を持参するのが当たり前だった時代から、ペットボトル全盛の時代へ、そして今は再びお茶を楽しむマイボトルの時代に変化してきた。そうやって時代のニーズや変化を柔軟に受け入れながらも、昔と変わらず、最高品質のお茶をつくり続けられたら、〈カネタ太田園〉にしかできない新たなお茶づくりになるだろう。昌孝さんが大事にしてきたお茶づくりの技術は勝則さんが受け継ぎ、その素晴らしいお茶をどう届けるかを美咲さんが考える。三者三様のこの絶妙なバランスが〈カネタ太田園〉のこれからの強みになるに違いない。