GENUINE JEANS SHOP Spiral
この土地だからこそ生まれた革小物や
浜松のメーカーと制作したジーンズなど
“メイド・イン・ローカル”なアイテムたち
天竜区二俣エリアにある昔ながらの商店街「クローバー通り」。そこでひときわ異色の存在が〈Spiral(スパイラル)〉だ。〈サムライジーンズ〉〈デラックスウエア〉といった国産ジーンズやカジュアルウェアを豊富にそろえるセレクトショップで、浜松市内だけでなく日本全国からジーンズマニアが訪れる。お店をはじめて17年。オーナーの福澤郁子さんは、天竜区内で捕獲されたイノシシや鹿の皮を使ったオリジナル小物を作りはじめた。“メイド・イン・ローカル”なプロダクトが生まれた、その背景について話を聞いた。
「この街ならお店をやっていける」
天竜でジーンズ専門店をオープン。
店内には、大量のジーンズがずらりと並んでいた。シャツやジャケットなどのさまざまなカジュアルウェアや帽子や革小物、シューズやベルトなども所狭しと並び、あれもこれもと目移りする。そのどれもがオーナー福澤郁子さんのお眼鏡にかなったものばかり。取りそろえるアイテムはほとんどがメンズものだが、ユニセックスなアイテムは女性でも着こなせる。何より福澤さんのジーンズ姿こそ、メンズライクな着こなしのお手本になるだろう。
福澤さんは浜松市中区出身。会社員として働いていたものの、結婚して子どもが生まれてからは専業主婦に。ものづくりが好きで帽子を自分で縫ってはオークションで売りはじめたことをきっかけに、アメカジ好きな夫とともに店をスタートした。
「浜松市内で2年半ほどお店をやってから二俣に来ました。今から15年前くらいは、この通りにもたくさんお店があって、ここでやったらおもしろいかもと思って。天竜ハムの菊池さんが作るベーコンが昔から大好きで、お店に行った時に『空き店舗を見かけるけれど借りられたりするのかな?』とおじさんに聞いてみたら、『一緒に見に行ってやるよ』って言ってくれて。その足で一緒に物件を見に行ってくれたんですよ。こんなにいい人がいるんだったら、この街で絶対にお店をやろうと決めました」
店を一緒に始めた夫とはその後、離婚したが、1人で2人の息子を育てながらなんとかお店を開け続けた。最初のうちはお客さんが来ないことも多く「出かけています」とメモ書きを貼っては、〈吉野屋精肉店〉へとソーセージ作りのお手伝いに行ったり、小さい子どもを泣き止まそうと散歩に出たりすることもあったという。
なんとか軌道に乗りはじめたのは、〈サムライジーンズ〉の〈スパイラル〉別注を販売し始めてから。“ここにしかないもの”を求めて、全国からファンが訪れるようになった。今では大切なジーンズのリペアや裾上げなど、細部にまでこだわるジーンズマニアから人気のお店として知られている。
天竜で捕獲された野生動物の皮革を
一点ものの雑貨としてよみがえらせる。
お店の一角に並ぶ、財布やバッグなどの個性あふれる革小物たち。これらは地元・天竜区で害獣として捕獲されたイノシシや鹿の皮を使ったもの。〈Spiral Dance〉と名づけ、オリジナルで制作している。
皮は、春野町にあるジビエ工房〈ジミート〉と、二俣にある寿司割烹〈竹染〉に提供してもらっている。〈ジミート〉へ伺った際、加工場で見せていただいたのは〈スパイラル〉行きの剥ぎたてのイノシシの皮だった。地元の猟師が獲ったイノシシや鹿の肉を販売する〈ジミート〉で、今までは破棄されていた皮が、〈スパイラル〉を経て、姫路にあるタンナー(なめし革業者)で丁寧になめされて鮮やかに着色され、長野県に工房を構える〈Groover Leather〉で革小物へと生まれ変わる。
鹿の革はとてもふわっとなめらかな肌触りで柔らかいのが特徴。一方、イノシシの革は厚くてハリがあり、毛穴も大きくワイルドな質感だが、使い込むとおもしろくなるという。牛はその大きさからたくさんの革が一度に取れるが、イノシシや鹿は体が小さくムラがあり、厚さもさまざまで加工が難しい。また、野生動物のため、鉄砲の穴が空いていたり、傷がついていたり、虫食いの跡があったりすることも。だが、福澤さんは、そうしたダメージさえも素材が持つ特性や魅力のひとつとして生かしたいと考えた。天然ものならではの表情や質感の違いが生まれるため、ほぼすべての商品は一点ものになる。
「その土地に生きている人が、そこに生きていた野生動物の革を着たり、持ったりすることが一番しっくりくるんじゃないかなと思って。気候とか食べ物とか、同じところの空気をすっていた生き物だから、その土地の気候風土に合うものだと思うんです。本当はジャケットとかシャツとかも野生動物の革で作りたいと思っているんですけど、なかなかたどりつかないですね(笑)」
どこでも何でも買える時代だからこそ、
地元生まれのアイテムをそろえたい。
福澤さんは今、地元・浜松の織物工場とともに“メイド・イン・ローカル”な、地元でしか買えないものを作ろうと奮闘している。
「うちで扱っているアイテムは、全国に取扱店があって、全く同じものが他でも買えるんです。今はネットショップもありますから、どこでも買えてしまう。そう考えた時、うちの立地や規模では、資金力のあるお店には絶対にかないません。だからこそ、自分たちにしかできないものを、どんどん作っていこう、そうしないとおもしろくないって思って。お金があれば、勝てる世界になってしまっているけれど、そうじゃなくて、自分たちだからこそ作れるものを考えたいんです」
そんな思いから福澤さんは、地元にどんな素材があるのか探し始めた。隣にある磐田市の福田町は、実はコーデュロイの国産シェア99%を誇るという。ところが、世の中に出回っているほとんどは中国製。地元のこんなにも近くで生産しているのにもかかわらず、日本製コーデュロイを探すのは大変なことだった。そこで、オリジナルのコーデュロイ生地を作れないかと模索したり、取り扱いメーカーに福田産のコーデュロイを使ってもらえるように提案したりしている。
また、浜松市東区西ヶ崎町にある辻村染織とは、念願のジーンズ作りもスタート。4年越しに実現した浜松産デニムは、インディゴと本藍でカセ染めした糸を使っているため、今、寝かせているところで、2020年中には販売予定だ。
「カセ染めの糸は芯まで染まっているので色落ちしにくいんです。その代わり、履けば履くほどだんだん鮮やかな青になっていく。色落ちを楽しむレプリカジーンンズとは真逆ですね」
ジーンズは色落ちやダメージなど、その経年変化を楽しむアイテムだ。革小物も同じく、使えば使うほど深みが増し、愛着が湧き、自分だけの世界にひとつだけの愛すべきモノになる。そんな人生の“良き相棒”に〈スパイラル〉で出会ってほしい。
写真:新井 Lai 政廣 文:薮下佳代
GENUINE JEANS SHOP Spiral
静岡県浜松市天竜区二俣町二俣1385
TEL:053-925-6001
11:00〜19:00
定休日:木曜日(臨時休業あり。詳しくはHPを)
https://www.spiraljeans.jp